隅家

本とか音楽とか

Crosby, Stills, Nash &Young 『Déjà vu』

 ふとしたきっかけでCrosby, Stills, Nash &Youngの『Our House』を聴いた。前に僕の知人が「音楽を聴いているとき神の存在を認めざるを得ない瞬間がある」と言っていたが、僕にとって『Our House』はまさに神様に触れる一曲だったらしい。

 別日タワーレコードに寄ってみるとこのアルバムがあったものだからすぐに購入してしまった。アルバムというのはやはりいい。ベスト盤はともかく、アーティストが自ら順番を決めて曲を配列したアルバムにはそれ相応の意味がある。アルバムは一つの物語だ。全然知らないアーティストでもアルバムを1つ上から順に聴いていけばそれだけでその人の世界に浸ることができる。

 そんなわけで帰って早々、相棒のウォークマンに『Déjà vu』を取り込み、順に聴いてみたのだったのだが、これがまたとんでもない名盤でびっくりした。特に気に入っているのは2曲目の『Teach Your Children』と4曲目の『Helpless』、それから言わずもがな7曲目の『Our House』。何と言えばいいのか分からないのだが、どうも僕は「柔らかな月日の流れ、あるいは終わり」といった観念を連想させる曲に弱い。心地よく流されてゆったりと自分が曲と一つになるような感覚がたまらない。ビリージョエルの『Piano Man』とかビートルズの『In My Life』とか、とにかくああいう曲が好きならしい。『Helpless』や『Our House』もまさにそういった曲の一つのようで、いつ、何度聴いても本当に素晴らしい。

 意外なほどハマってしまっているのが『Helpless』。少し調べてみるとニール・ヤングの名前に突き当たり、後日ブックオフで『Harvest』と『Unplugged』のアルバムも買ってしまった。こちらもまたすごくいい。

 

There is a town in north Ontario,
With dream comfort memory to spare,
And in my mind
I still need a place to go,
All my changes were there.

Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.
Leave us

Helpless, helpless, helpless
Baby can you hear me now?
The chains are locked
and tied across the door,
Baby, sing with me somehow.

Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.
Leave us

Helpless, helpless, helpless.

 

 正直海外の音楽を聴くときに歌詞なんて意識しない。向こう特有の言い回しなんて分からないし、そもそも何と言っているのかなんて半分以上分からない。こうやって文字に起こしてみれば分かるけれども聴いているときに聴こえてこないなら無いようなものだ。それでもサビで繰り返し歌われる「ヘルプレス」の言葉は絶対に聞こえてくる。この一つの単語に日本語でどんな訳をつければ作者の意に沿うようなニュアンスになるのかなんて到底分からない。そもそもメロディの制約がある中で選ばれた単語を違う言語に置き換えようとするなんてナンセンスだ。Helplessの意味はHelplessでしかないしそれで十分だと思う。

 でもそれはそれとして意味は付けたくなる。間違っていようと僕にとって価値がある意味なら何だっていいと思って勝手にこの曲を解釈して楽しんでいる。そういえばカズオ・イシグロの『私を離さないで』にも似たような話があった。『Never let me go』という曲に出てくる「恋人」を意味する「ベイビー」を、主人公は「赤ん坊」のことだと思うのだ。何かおかしいとは気づいているのだけど、そんなことは気にせずに主人公はこの曲を母親と赤ちゃんの曲なのだと自分の中で決める。母親が赤子を抱いて、ベイビー、私を離さないでと歌っている……。たしかそんなような話。

 僕はと言うと『Helpless』は慰めてくれる歌だと思ってる。サビに入ると「ヘルプレス」と繰り返し聞こえてくる。僕は「どうしようもないさ」と言われているような気になる。諦めてるとか悲観的になってるとかじゃなくて、色んな嫌な事とか、落ち込んでる事とか、そういうの全部を「どうすることだってできなかったさ」と優しく慰められてるような気になってくる。何となく呼吸一回分ゆっくりになるような心地で、僕は「そうだねぇ」と思いながら慰められてる。リーブアス、ヘルプレス、ヘルプレス、へーールプレス、、、